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ミシガン便り

「大学夏野球」

1対2、9回の裏、2アウト1,2塁。
ホストマザーのリンダがテキストメールを送ってくれる。
「このバッターが出れば打順がまわってくるわよ」

二か月間のリーグ戦の後、どうにか勝ち残って進出したプレイオフ。3試合中、先に2勝した方が決勝戦に進むというシステム。昨日は一度大きく試合をひっくり返したものの、ピッチャーを引っ張りすぎてまたひっくり返されてしまった。今日負けたら終わり・・・。

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大学でも野球をやっている息子は、春の大学野球シーズンが終わった後も家には帰って来ず、マンハッタンにほど近いロングアイランドにあるハンプトンズ・サマーリーグで二か月間プレーをした。車で30分から1時間ぐらいの範囲内に7つのチームが競い合う。選手たちは、ニューヨーク、コネチカットなどの近隣だけでなく、遠方から来ているケースも珍しくない。息子のチームには、オハイオ、ケンタッキー、ミシガン、フロリダ、コロラドなどなどからも来ていた。

息子の大学チームはこの春、リーグで優勝、全米大学選手権にもコマを進め、そこで名の知れた強豪大学を破り、大学野球部創立以来の勝ち数記録を更新した。先輩であるパパブッシュにお招きいただくほどの快挙。そのため、大学の授業終了後も寮に残って生活し、このサマーリーグにも10日ほど遅れての参加となった。

もともと公共交通のほとんどない、沼と海岸ばかりのエリア。それに加えて東端の町のチームだったこともあってか、トレーニングジムに行くにも、他チームの球場に行くにも距離があり、車がないとどうにもならない。本人は「夏の間、車を借りられないかな」なんて言っていたが、ロングアイランド滞在中は同じ家にホームステイしていたダレンの車に乗せてもらったり、時には借してもらったりしてしのいだ。

自宅から通える選手はもちろん通うのだが、地元の子ばかりではリーグのレベルも限定されてしまうこともあり、チームのほうでホームステイ先を斡旋してくれる。
で、多くの選手は地元の一般家庭にお世話になる、ということになる。こういう風にして全国から選手を集めているリーグは、アメリカ中を見渡すといくつかあり、その最高峰が、ボストン近郊の保養地で行われるケープコッド・リーグ(Cape Cod League)。ほとんどといっていいくらいドラフトにかかるらしい。そのほかアラスカ・リーグなどが有名だ。

昔、テネシーにあったAAチーム、チャタヌガルックアウツの試合に通い詰め、声をからして応援していたころ、選手の大学時代のホストファミリーが訪ねてきて感動の再開、というシーンを何度も見たことを思い出す。ホントの親子かと思ったことも何度か。ひと夏一緒に過ごすのだから家族同然なのだろう。当時小学生だった息子がホームステイをして夏野球をする歳になったというのは親として感慨深い。

ホストをしてくれたリンダとグレッグのところには10歳と5歳の男の子がいて野球をやっている。自分の子供たちにとって、野球の上でも大学を目指す上でもいい影響になるのではと、今年初めてホストファミリーを買って出ることにしたのだそうだ。そしてやってきたのが200cmのダレンと174cmのわが息子、というわけだ。

うちの息子は、アメリカの野球選手としてはとても小さい。NCAA(National College Athlete Association)の Division1のチームはどこも平均身長が190cm近く。そのなかで、174㎝、70㎏は頭二つぐらい小さいのだ。子供のころからどちらかというと食が細く、大きなアメリカ人相手に野球を続けていくにはもっと食べてほしいと常々思っていた。ところが、一緒に生活しているダレンが「おれはこんなに食べるやつ、今まで見たことない」というではないか。200cm、100㎏超のダレンが驚くほど息子は食べているのか。その昔、レストランで料理人をしていた(今は高校の物理の先生)というグレッグの手料理に食が進むのだろう。実際、ご挨拶にうかがったときにごちそうになった彼のローストビーフは絶品だった。

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そうそう、試合のほうは、毎試合ではないがインターネットで実況放送がある。中継しているのは地元の放送局でインターンをしている大学生。グラウンドの内でも外でも、一流になろう、プロになろうと真剣な闘いが繰り広げられる。プレーオフの試合を見にはいかれないので、この日もこのラジオ中継に耳を傾けていた。

アナウンサーの声が上ずる。「打ちました、レフトです。」思わず固唾をのむ。打球の軌道を想像する。「レフト、回り込んでキャッチ。試合終了です。」残念、息子まで回らなかった。ネクストバッターズボックスで待ちながら、いったい何を考えていたのだろう。

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