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「スリランカって・・・」

「スリランカに行くことになったの」
弾んだ声の主はエリン、ひょんなことから友だちになったアメリカ人だが、ご主人がスリランカ人。30代の共稼ぎで、もうすぐ4歳と1歳半になる女の子がいる。

ご主人のお父さんが心臓を患っていて、いつ何があるか分からないから、元気なうちに顔を見せに行かせてあげたい。でも、カードの支払いはあるし、子どもたちの教育にもこれからお金がかかるし、そうおいそれとスリランカまで行く余裕はない・・・という話は前から聞いていた。

それが、今回、彼女のお母さんが、「お金のことはどうにかするから、家族で行ってらっしゃい」と言ってくれたのだそうだ。ご主人(つまりエリンのお父さん)が昨年急に亡くなったことが、ひきがねになっているかもしれない。ともかく、元気なうちに孫の顔を見せてあげて、と強く勧めてくれたのだそうだ。

もちろん、降って湧いた幸運に大いに喜んだわけだが、同時に一抹の不安があるようだ。かつてスリランカに一年ほど住んだことのあるエリンは、子どもたちを連れて行くことに心落ち着かないものがあるというのだ。

ものがなくってとにかく不衛生。豊かな国アメリカ出身のエリンから見て、スリランカの生活に戸惑いを覚えるのは理解できる。しかし、何よりも不安なのは、以前の滞在中に経験したジェラシーの文化。それが彼女に二の足を踏ませているらしい。

「誰かが、何かほかのみんなが持っていないようなものを手に入れそうだと分かったとき、周りの人がこぞってそれを阻止しようとする」という「文化」がある・・・のだそうだ。本当なのだろうか?ちょっとにわかには信じがたいのだが。

日本からはどちらかというと縁遠い感じのするスリランカという国。2009年までは内戦が続いていて、現在も一日2ドル以下の生活をしている人口が25%だという。内戦で政情の不安定な中、密告の類があったということなのか。生活の苦しいなかで、ねたみの感覚が普遍的に行き渡っているのか。しかし、ジェラシーが文化にまでなっているなんて、本当にそんなことがあるのだろうか。

アメリカ人の両親から生まれ育った白人の彼女と現在のご主人がお付き合いを始めたとき、彼はこういったのだそうだ。「二人が付き合っているってことは、絶対に誰にも言わないように。」「ねたんだ人が、あることないことでっち上げ、下手をすると大使館にまで駆け込んで、この国に住めなくしてしまう。」のだそうだ。スリランカ人の認識では、「アメリカ人と結婚するということはお金を一杯手に入れるということ、つまり、みんなの持っていないものを手に入れることになる」からだと。「ぜんぜん違うのにね~」と彼女は笑っていたが・・・。

ともかく、二人が結婚するということはギリギリまで誰にも言わず、最低限知らせたい、知らせないといけない人たちだけを呼んでの結婚式だったのだそうだ。

もっとひどいのはご主人の妹さんに対するもの。この国ではお見合いが一般的。お金持ちにとっては相手の家庭状況がわかって安心、中流階級もそれなりに満足、貧しい人たちは少しでもお金になる縁組を求めて、ということらしい。
妹さんは、オーストラリアに住んでいるスリランカ人の男性を紹介され、毎日電話をしたりしてお互い気に入り、いよいよ結婚という話になった。で、その男性のおばあちゃんが、孫の嫁になる子の顔を見にいきたい、ということで、サプライズでお孫さんの婚約者(エリンのご主人の妹さん)を訪ねることにした。

ところが、たまたまその日、彼女は留守にしていた。知り合いの若い子がダンスパーティに行く付き添いを頼まれたのだ。幼稚園の先生をしていて、これまで彼氏がいたこともなく、仕事先からまっすぐ帰っては家族のために料理を作る、という絵に描いたような堅実な彼女のことだから、外出していることも珍しいのだが、その日に限って出かかけていたのだ。

で、これまた、たまたまこの日、家に居合わせたのが、家族ぐるみで付き合いの深いメアリーおばさん。オーストラリアで成功した人と縁談が進んでいる、と聞いてジェラシーの心がふつふつと湧き上がったのか、まさにあることないこと、このおばあちゃんに告げ口したらしいのだ。

「あの子ったら、毎晩遊び歩いていて、今日もダンスパーティでしょ。誰と何しているか、分かったものじゃないわ。まったく、ふしだらなんだから。」

当然このお話はご破算になってしまい、兄が結婚して出て行った今、29歳の彼女は病気のお父さんを抱えて家の一切をやりくりしているのだそうだ。

ホントにそんな文化があって、みながみなそういうことをしているのか。どうにも信じられない話で、この話だけからスリランカの文化を「ジェラシーの文化」と決めつけてしまうことはむろんできないし、まぁこれは、エリンとご主人の家族が体験した、特異なケースであろうと理解しておきたい。

ただ、ねたみで縁談を潰された妹さんの話は、なんとも胸が痛むのも事実。少なくともエリンやご主人にとっては、切実な体験として、心に刻み込まれているのだろう。

ちょうど今日、偶然ご主人に会ったから、「9月の旅行、よかったわね。」と言って、ハイファイブした。とってもうれしそうだったのを見て、やや安心。つくづくよかったなぁ、と思いながら、ふと気がついた。ご主人、私が旅行のことを知っちゃったこと、心配しないかしら?

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