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ミシガン便り

「Art Appreciation」

娘の小学校から送られてきたボランティア募集のメール。Art Appreciation。これまでも年に一度ぐらい募集しているのをみたことがあるが、いつも、何だろうと思っているうちに別の誰かに決まっていて、何をやっているのかよく知らないままできていた。

今回、「何も美術の知識がなくてもできます」と書いてあったので興味をもった。さっそく問い合わせてみると、娘のクラスはもう担当するママが決まっていた。
「いっしょにしてみてもいいんじゃないかしら」
オーガナイザーをしているママからの返信にはそう書いてあったが、「もう決まっているならまあいいや。興味はあったけど・・・。」と思ってそのままにしていた。

ところが、今年の担当になったママ、ジェニファーとたまたま顔を合わせたときに、向こうから声をかけられた。
「Art Appreciation、いっしょにやってみない?」
以前「折り紙の講習会」をしたときに、息子ちゃんがいたく感動してくれたということで、それを覚えていてくれたのだ。
「チョットだけでもやってみない?あなたなら絶対大丈夫よ~。」
後から冷静になって考えれば、折り紙という芸術そのものが素晴らしかったから子どもたちが喜んでくれたに過ぎないのだが、おだてに弱い私は、その気になってついつい木に登ってしまった。

このArt Appreciationというのは、美術の時間とは別に、PTAからのボランティア、つまりパパやママが、週に一回、30~45分のセッションで、子どもたちに絵画の説明をするのだ。聞けばもう30年ぐらい続いている、「伝統」あるプログラムらしい。
「教材」は学年ごとにきっちりとファイルされている。たとえば5年生ならば、アメリカン・アートの有名どころが年代別に選んであり、一回分だいたい5点ぐらい、作者と作品についての解説が記されている。開拓時代、南北戦争後、第二次大戦ごろ、戦後、そして60年代、70~80年代、といった感じで全7回。
これを読んでその内容を子どもたちに伝え、また絵(もちろん本物ではなく、ポスターのようにラミネートされた大判写真)を見せて感想を聞きながら、いっしょに絵を楽しんでいくのが仕事。虎の巻のファイルにも、「『答えに正しいとか間違っているというものはないのだから、感じたことを話してみて・・・』と最初に伝えてください。」とある。

うちのクラスの担当ジェニファーはずっと以前からしていてもはやエキスパート。実はもう一人、「できたら参加するわ」というママもいた。彼女も経験者で、このプログラムのまとめ役でもあるジェン。そう、最初に問い合わせたときに「いっしょにやったら」と言ってくれた彼女だ。自身タイルのデザイナーということでアートに造詣も深く、昨年などは「今日の絵はマリー=アントワネットの時代のものだから、それに合わせてレモンキャンディ」と、時代に合わせたおやつの差し入れをしてくれたとか。今年は仕事が忙しかったようだが、一度だけ来てくれた。差し入れはアイスサンド。アイスクリームがチョコレート味のクッキーでサンドイッチされているあれだが、アメリカらしいなと思ったのは、ミント味のものもあったこと。生徒全員分を買ってきてくれ、それを食べながらのプレゼンテーション。ちょうどとても暑い日だったので、ぴったりの差し入れだった。ありがとう、ジェン。 さて、実際にしてみてどうだったかというと・・・。

自分が担当する絵と画家についてまずファイルを読み、さらにネット上でも検索してじゅうぶん準備して臨んだわけだが、画家の名前から美術用語まで何もかも英語なので、覚えたつもりでも言葉がうまく出てこない。日本語だったらわけなく説明できそうな、ちょっとしたニュアンスや用語が出てこない。この水平に伸びる線が・・・とか、この濃淡やランプの灯が夜を表し・・・などと、こうやって文字にしながら考えているとすんなり出てくるのだが、子どもたちの前で話しているときには頭が真っ白になって、立ち往生してしまった。
英語はやっぱり外国語なのだ。日本語を使うようには使いこなせない。わが家は子どもたちの日本語の保持(どころか、本当は伸ばさないといけないのだが)のため家の中では英語は禁止。私の英語が伸びないのはそのせいか?(笑)

 

話が逸れた。

見かねて、担任の先生ジェフが助け舟を出してくれた。ジェフはもちろんファースト・ネーム。われわれ保護者には「ジェフと呼んでくれ」とおっしゃっているので・・・。おっと、また話が逸れてしまいそう。ともかく、もう20年だか30年だか、とにかくこのArt Appreciationのスタート時から関わっているベテランのジェフが、絵のバランスやらニュアンスやらの質問を代わりにしてくれ、何とか乗り切ることができた。母国語でないと厳しい。すべてを一人ですることになっていたらどうなっていたことやら???考えるだけでも恐ろしい。

一回目の反省をもとに、二回目以降は伝えたい内容を予め文章にして用意しておくことにした。もちろん棒読みばかりというわけにはいかないので、適当にアドリブは入れていくが、原稿を準備しておいたおかげで単語が出てこなくて詰まってしまうということはなくなり、それなりにスムーズにこなせるようになった。

江戸後期にあたる作品を扱った際に、少し浮世絵やペリーの来航について話してみた。また、アドルフゴッドリーブの太陽のようなBurstsという作品群に関連して、日の丸のことにも少し触れてみた。でも、どれも専門ではない上、英語で話すには限界があり、思ったことを伝え切れずに終わったという感覚はぬぐいされない。

子どもたちの反応は・・・というと、キンダーの時から毎年していて慣れているということもあるのだろうし、5年生は聞く側だけでなくキンダーのクラスで教える側になるということもあるのだろう、手を上げて自分の意見を積極的に話してくれる子がほとんどで、こちらも楽しめた。と同時に、この「授業ではない時間」を利用して算数の補習をするようで、それに呼ばれた生徒の出入りも多く、落ち着かないところもある。また、好きな場所に椅子を持って移動してもいいことから、あまり興味を持っていない子どもは後ろのほうで手持ち無沙汰にしてもいた。

それから、だいぶこちらの習慣に慣れてきているとはいえ、机に足を上げて聞いている子とか、勝手にトイレに行ったりきたりする子とか、まあ、いろいろいるということも驚きだった。それでもこの学校は、州内でもレベルの高い公立学校の一つに数えられているからマシなはずだ。エリアによっては、小学校でも授業にならないとも聞く。どんなだろう?

始める前はどんな絵を紹介するかなんてことはもとより、何をするのかさえわかっていなかった。ヨーロッパ美術は、シルゴ先生他の引率で一ヶ月行った時に、ギリシャ・イタリア・フランス・ドイツ・オーストリア・スペインと見て回る機会があり、少しは親しんではいたが、アメリカンアートは何にもといっていいほど知らなかった。アメリカ合衆国は歴史が浅く、絵と歴史自体が密接しているので、付け焼刃だが歴史も勉強しなければならなかった。でも、終わってみると時代を駆け抜けたような、何とも不思議なすがすがしい気分がした。と同時に、アメリカ人ばかりの中にいる「日本人の自分」も感じた。生徒たちが私を通して、何か『違った文化』を感じてくれたらいいなあと思ったりもした。

最後に、ジェン、ジェニファーのみならず、担任のジェフまでも「へえ~」といって楽しんでくれたアンディ=ウォーホールの言葉をお伝えしたい。

What's great about this country is that America started the tradition where the richest consumers buy essentially the same things as the poorest. You can be watching TV and see Coca-Cola, and you know that the President drinks Coke, Liz Taylor drinks Coke, and just think, you can drink Coke, too. A Coke is a Coke and no amount of money can get you a better Coke than the one the bum on the corner is drinking. All the Cokes are the same and all the Cokes are good. Liz Taylor knows it, the President knows it, the bum knows it, and you know it.
(The Philosophy of Andy Warhol に掲載されています)

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